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海洋ごみの循環を学ぶ「八重山ビーチクリーンプロジェクト」
~日本で広がる「サステナブル教育」の取り組み事例~

お知らせ
2023.10.30

近年、持続可能性を意味する「サステナビリティ」や、その目標達成のための指針である「SDGs」といった言葉を耳にすることが増えていますが、教育の現場においても「サステナブル教育」への注目が高まっています。
サステナブル教育はESD(Education for Sustainable Development)と呼ばれ、「持続可能な開発のための教育」を意味します。特に子どもたちにとっては自分ごと化せざるを得ないテーマであり、日本においても、その推進のための動きが徐々に増えてきました。ここでは、教育旅行にも組み込むことができるサステナブル教育プログラムの事例を紹介します。

沖縄県最西端の八重山諸島は、海流に乗って漂着するごみが県内で最も多く、近年はその処理が深刻な問題になっています。
そこで2021年、環境保護に取り組む3社が連携して、SDGsを学ぶプログラム「Tourism for Tomorrow 〜八重山ビーチクリーンプロジェクト〜」をスタートさせました。
本プログラムの特徴は、“海洋ごみを拾うボランティア活動”に留まらない循環型のしくみです。未来を担う若い世代が環境問題を“自分ごと”として考えるきっかけになればと、高校の修学旅行や企業の社員研修などに利用されています。

繊維メーカー×環境保護事業運営会社×旅行会社×自治体が連携

「八重山ビーチクリーンプロジェクト」は、SDGs関連の事業を手がける大手旅行会社が企画・催行し、石垣市で環境保護事業を行う地元企業がビーチクリーンツアーを実施しています。
集めたごみのうちペットボトルを愛知県の繊維メーカーが買い取り、アパレル製品の原料となる繊維に加工して、製品化したTシャツやポーチをツアー参加者の手に届けます。ビーチクリーンツアーで集めたごみを回収し、リサイクル用のペットボトルを圧縮して保管するのは石垣市なので、プログラムの実現には石垣市の全面的な協力が欠かせません。
リサイクルによって海洋ごみの回収と処理に費やす自治体の負担を軽減し、学びの場を通して環境に負担をかけない社会づくりへの貢献を目指します。

ペットボトルごみから製品化されたTシャツとポーチ

出発前の事前学習で海洋ごみの現状をレクチャー

プログラムの具体的な内容は、例えば修学旅行中の高校生がビーチクリーンツアーに参加する場合、まず出発前に八重山諸島の海洋ごみ問題に関する事前学習を行います。
海洋プラスチックごみが海や生き物に与える影響、観光事業者がビーチを清掃して景観を保っている現状、石垣市がごみを埋め立てているものの焼却施設もリサイクルのしくみも十分ではない離島特有の事情、ボランティアの労力と多額の税金がかかっていることなどを、現地の関係者がオンラインや動画で説明します。生徒たちがイメージする八重山諸島は“きれいな海”なので、ビーチにごみが溢れる動画を見て衝撃を受けるといいます。

ツアーを実施する地元企業のスタッフがレクチャー

海洋ごみの回収と分別を通して資源の循環を実感

ビーチクリーンツアー当日は、海岸の状態を確認して回収方法を決め、カゴやビニール袋を手に、ひたすらごみを拾います。ガラスの破片や注射器も混じっているため、軍手とスニーカーは必須です。拾ったごみは1か所に集め、石垣市のルールに従ってペットボトル、プラスチック、ガラス、漁網などに分別します。最初は“ボランティアしている”感がある生徒たちも、そのうちクラス対抗になるなど、自然にチームビルディングができていくといいます。
海洋ごみは再利用できる資源でもあり、地元の人たちは「オーシャンプラスチック」と呼んでいます。そういった地元の雰囲気を感じて、自分たちもリサイクルビジネスの一端に関わっている実感が湧くようです。

拾ったごみは市のルールに従って分別する

事後学習はオリジナル製品のデザイン

ごみの分別が終わったら、ペットボトルごみから作るTシャツやポーチのデザインを行います。ビーチクリーンの取り組みを象徴するイラストを描いたり、『資源を無駄にしない!』などのスローガンをみんなで考えたりします。オリジナルのイラストや文字がプリントされた製品は、早ければ2か月後に生徒たちに届けられます。

なお、天候によってごみ拾いができない場合は、ビーチの砂を水中に沈めてマイクロプラスチックを抽出するワークショップなどを行います。マイクロプラスチックは微小なので、ビーチでは砂に紛れて目立ちませんが、水の中に入れると軽いマイクロプラスチックがたくさん浮いてくるのです。きれいに見えるビーチも実は汚れているという気付きを得られ、マイクロプラスチックを取り除く大変さを実感することができます。

若い世代が環境問題を自分ごととして考える第一歩に

プログラムのリピート率は高く、参加した生徒の保護者からも「自分たちの地域でもやるべき」など賛同の声が上がっています。ただ、一般的にはごみ拾いのイメージが強いので、より広くプログラムの価値を伝えていくのが今後の課題です。
海岸に漂着するペットボトルは蓋が付いたものだけで、海洋ペットボトルごみのわずか10%です。残り90%の蓋がないペットボトルは海中に沈んでしまうため回収できません。そのわずか10%さえ離島では処理しきれない現実に、生徒たちはショックを受けると同時に、自分たちに何ができるかを考えはじめるといいます。

若い世代が海洋ごみの現実を知り、ビーチクリーンで環境保全に貢献しながら旅行を楽しみ、循環型の社会を目指して行動する――そのはじめの一歩となる機会を提供することに、本プログラムの意義があるのではないでしょうか。


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