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持続可能な地域社会の担い手を育む「SDGsの日常化」
~日本の学校教育でのSDGsに対する取り組み事例~

お知らせ
2023.01.20

日本の教育現場では今、SDGsに関する取り組みを行う学校が増えています。
SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称です。2015年の国連サミットで採択され、2030年までに達成することを目指して掲げられました。「持続可能でよりよい世界」の実現に向け、環境問題・経済成長・人権・紛争・教育など、21世紀の世界が抱える課題を解決するための17の目標が定められています。
ここでは、学校において特に先進的なSDGsへの取り組みを行っている事例を紹介します。

東京都江東区の八名川小学校は、2010年から全校体制でESD(Education for Sustainable Development=持続可能な開発のための教育)を実践しており、その一つのゴールとしてSDGsを設定しました。以降、多くの画期的な取り組みを実践して注目を集めています。2011年にはユネスコスクールに認定され、そのネットワークを通じて対外的な情報発信にも力を注ぐなど、実践と試行錯誤を積み重ねながらSDGsを推進してきました。そういった活動が評価され、2017年には「第1回ジャパンSDGsアワード」で「SDGsパートナーシップ賞」(特別賞)を受賞しています。

「問いをもつ」問題解決的な学習

探究学習では実際に地域に出て調査を行い、そこで学んだことをまとめ発表し合う

同校で力を入れているのが、「問いをもつ」教育です。知識を教え込むだけの従来型の教育ではなく、児童一人ひとりが興味を持ち、自ら主体的に学ぶ教育を目指しています。「学ぶ楽しさを感じさせることで、もっと知りたい、自分で調べたいという気持ちにさせること。児童たちの興味を掻き立てることに力を入れている」。そう語るのは、澤田純二校長です。「そして大切なのが、学んだことに対して『自分には何ができるか?』と考えて行動できるようになること。それができて初めてSDGsの学習にも繋がる。そのために、児童がアウトプットする機会を多く与えるようにしている」(澤田校長)。

図書室にはESDやSDGsに関する本が揃えられている

そうした土台の上で進めたのが「SDGsの日常化」です。子どもたちにいきなり社会問題について考えさせたり、直接的な取り組みをさせたりするのではなく、学校内の様々な場面で日常的にSDGsを意識できるよう、環境を整えました。掲示物ひとつひとつに関連するSDGsのゴールアイコンを貼ったり、図書室ではSDGsのゴールに紐づける形で書庫をグルーピングし、月ごとに設定するゴールに関連した書籍を集めた「SDGsコーナー」も設けられたりしています。行事や各学年の活動もSDGsに結びつけるなど、学校生活の中で自然とSDGsの見方や考え方に触れられるようになっています。

「ESDカレンダー」を使った、教科横断的なカリキュラム・マネジメント

ESDカレンダー

八名川小学校では、ESDに基づく学びを実践するための教科横断的な「ESDカレンダー」を中心としたカリキュラム・マネジメントを実施しています。
ESDカレンダーとは、授業で学ぶ内容を教科間で互いの繋がりがわかるように図示したものです。各教科の単元を総合学習中心に関連のあるものどうし線で結び、その繋がりの意味を書き込んでESDのテーマに合わせ色分けすることで、教科の壁を超えた横断的な学習の流れのイメージマップができあがります。このようにして、各教科に散在する学習内容を構造化することで、カリキュラム作成において全体の整理ができ、作成にかかる時間の削減にも貢献しています。ESDカレンダーは、より深い学びを創っていくための要となるものなのです。

ESDカレンダーは各言語に翻訳され、海外でも活用された

このESDカレンダーは八名川小学校が提唱し、今では多くの学校で活用されています。海外でもアジアを中心に、各言語に翻訳され使われました。「そのような発信を積極的に行い、持続可能な社会を形成する教育を広めることも、八名川小学校の役割」と澤田校長は話します。

アウトプットの機会を通じて学びを活きたものに

「八名川まつり」での児童の発表の様子

これらの取り組みを象徴するイベントともいえるのが、毎年行われる学習発表会「八名川まつり」です。児童たちはこの発表会に向けて、授業で学んだ範囲の中から自分たちでテーマを考え、グループごとに調べ、学びを積み上げて発表に臨みます。当日は各学年の児童が教室や体育館などにブースを出して発表を行い、保護者のみならず地域住民、外部の教員、教育関係者にも広く公開されています。

参観者は自由に質問することができ、それに対して発表する児童が答える、というやり取りが展開していきます。参観に訪れた関係者からは、児童たちが発表中も質問への回答も原稿を見ず自分の言葉で話していることに、驚きの声が上がります。一人ひとりが自分で調べ考えることで、学んだ内容を自然と自分のものにできているのです。そして、この大きなアウトプットの機会を経験することで自信を持つことができ、自己肯定感の醸成にもつながっているといいます。

持続可能な社会の担い手を育む、地域とのつながり

地域の資料館での総合学習の授業

八名川小学校は江東区で唯一のコミュニティ・スクール(地域運営学校)に指定されており、その運営には保護者や地域住民、学識経験者などが参加しています。もともと下町の風土が色濃く残り、昔ながらの良好な人間関係が根付いている土地柄もあり、地域の人たちと学校の繋がりは非常に密接です。海外からの来客時には生徒の保護者が通訳を買って出たり、祭りについて学ぶ総合学習の授業では校区内の町会長たちが半纏を着て集まり、児童たちの質問に答えてくれたりしました。近くには博物館などの施設や史跡が多くあるなど、学習環境にも恵まれています。

こうして地域に根ざした学校となることで、持続可能な地域社会を作ることに繋がり、児童たちは自然とその担い手としての素養を獲得していきます。祭りについての総合学習では、児童から「地域の人の手で大切に受けつがれてきたことがわかった」、「これからも続けるために、募金したり参加したりしたい」といった感想が挙げられ、その一端が垣間見えました。

大事なのは、児童たちがこの学校を卒業して中学校や高校に進んでも、そうした学習や取り組みを続け、SDGsへの意識を持ち続けていくことです。簡単なことではありませんが、「そのための素地を作るのが私たちの役割。だからこそSDGsに触れられる接点を増やし、自然と意識できる環境を今後も作っていきたい」。澤田校長は最後にそう語ってくれました。