訪日教育旅行の現状

2017年度の文部科学省の調査によると、台湾からの訪問者が最も多く全体の3割以上を占め、次いで韓国、中国、アメリカ、オーストラリアが続きます。国や地域によって、教育旅行のニーズが異なるため、訪日教育旅行の受け入れにあたってはそれぞれの特徴を理解する必要があります。

また、アジアの他の国・地域と比べて日本は旅行全体のコストが高めになるため、各国・地域の特徴に合わせて日本ならではの安全性・学習素材・学校交流などコストに見合ったアピールが必要となります。

訪日教育旅行の目的

日本でも高等学校や中学校における海外への修学旅行が行われる場合もありますが、日本における修学旅行と海外での教育旅行では目的や内容が異なっています。先述の通り、国や地域によっても大きな差異がありますが、訪日教育旅行における各国・地域に共通して見られる目的を3つご紹介します。

1学校交流

海外では国外への教育旅行を行う場合、現地の学校との交流が重要な要素であると考えられています。学校同士の交流では主に授業への参加や特別な学習プログラムの実施、芸術やスポーツによる交流などが行われることが多く、日本独自の生徒活動である部活動への参加にも需要があります。

お互いの学校の準備した出し物を見せ合うだけの表面的な交流だけでなく、生徒同士が話し合いながら同じ目標に向かって一緒に行動するような教育的価値の高いプログラムが求められています。交流時間も昼食を含む丸一日のプログラムの希望が多い傾向にあります。

学校交流

2ホームステイ

現地での交流が重視されるため、学校交流と同じくホースステイやホームビジットにも需要があります。ホームステイは日本の生活を体験し、日本人と交流を深める絶好の機会と考えられています。また、日本語を学習している生徒にとっては活きた日本語に触れる機会でもあります。

近年では農泊も人気となっており、農村や漁村での生活を通して日本の食文化や自然環境を学ぶという教育的効果が期待されています。日本ではホームステイの受け入れ体制整備が進んでいない地域も多く、安全面への配慮を含めた環境整備が課題となっています。

3日本独自の学習素材

日本で行われている修学旅行に比べて、海外における教育旅行は高い教育的効果が求められる傾向にあります。特に子供生徒たちが自ら考えたり、何かを作ったり、身体を動かすなどの体験型のプログラムが人気です。日本の文化や自然、先進的な技術、平和学習など独自のテーマに基づいた学習素材を提供することが求められます。

JNTOでは訪日教育旅行の英語サイトにて、海外の学校へ向けて学習素材の紹介を行っておりますのでそちらもご参考ください。

歴史・文化・最先端技術の学習

国・地域別の特徴


public台湾

言語 中国語(繁体字)

台湾では教育旅行先として日本の人気が高く、海外教育旅行を行っている学校の約9割が日本を訪れています。東日本大震災後の回復も早く、2012年には震災前を上回り順調に伸びています。

高等学校による教育旅行が主流であり、日本の有名大学の視察を希望する学校もあります。学校交流においては、学校区分や学力などの共通項を持つ学校との交流を求める傾向があり、マッチングには時間がかかる場合も多いです。学習素材として教育色の豊かなプログラムが求められており、スーパーグローバルハイスクールなど日本の先駆的教育制度の事例を参考としたいとの要望もあります。

台湾の生徒
実施主体 小学校・中学校・高等学校(主に学校長の裁量により決定)
実施時期 4~5月、11~12月
団体規模 数十名
標準的な日数 5日~6日間
主な訪問地 東京・大阪・神戸・京都・長野・群馬・静岡
他の候補地 アメリカ・韓国・オーストラリア

訪日教育旅行の主な目的

check_box 体験学習
check_box 日本人の生活体験
check_box 学校交流
check_box ホームステイ
check_box 有名大学視察

訪問地の決定要因

check_box 共通項を持つ学校との交流

public中国

言語 中国語(簡体字)

中国は伝統的に教育熱心であり、また一人っ子政策により一人しかいない子どもへの投資を惜しまない傾向があることから、子どもを教育旅行へ参加させる家庭が増えています。教育旅行において学校交流は必須であると考えられている場合が多く、一緒に授業を受ける、給食を食べる、スポーツや芸術活動を行うなどの交流に特に需要があります。

実施の可否は日中関係に大きく影響を受け、多くの学校が日本行きを敬遠していた時期もあります。東日本大震災後は、従来日本を訪問していた学校が韓国へ振り替えるなど他国との競合が顕在化しており、回復の動きは少し鈍くなっています。

  
日本と中国の小学生による交流
実施主体
  • 小学校・中学校・高等学校(主に学校長の裁量により決定)
  • 旅行会社(複数の学校が参加)
実施時期 7~8月、12~2月
団体規模 数十名~数百名
標準的な日数 5~7日間
主な訪問地 北海道・東京・大阪・京都・長野・九州
他の候補地 韓国・台湾・アメリカ・オーストラリア・英国・UAE

訪日教育旅行の主な目的

check_box 学校交流
check_box 日本文化体験
check_box 環境技術見学
check_box 観光

訪問地の決定要因

check_box 安全性
check_box 国際情勢
check_box 費用
check_box 学習プログラム
check_box 交流相手の学校

public韓国

言語 韓国語

韓国からの訪日教育旅行では安全性が強く求められる傾向にあります。2014年に発生した船舶事故にて犠牲者の多くが修学旅行中の高校生だったことから、政府によって教育旅行・修学旅行の安全措置対策が見直されました。教育旅行における学校長の責任が増大し、訪問地決定における保護者の意見も重要視されるようになったため、安全・安心な教育旅行の訴求が重要です。

学習素材として、日本の生活や文化の体験はもちろん、朝鮮通信使など韓国にゆかりのあるテーマの学習も人気があります。学校交流では交流を行った学校との姉妹校関係の締結など、長期的な相互交流を希望する場合もあります。

近年では特定の時期に学校や学年全体が旅行を実施するのではなく、クラス別など小規模な単位に分かれて時期をずらして順番に教育旅行を実施する傾向が見られます。また、韓国では教育旅行が学校だけなく、青少年団体によっても実施されており、複数の学校が合同で教育旅行を行っている場合もあります。

実施主体
  • 小学校・中学校・高等学校
  • 青少年団体(複数の学校が合同で実施)
実施時期
  • 学校主催の場合 4~6月、10~11月
  • 青少年団体主催の場合 1~2月、7~8月(スクールホリデー)
団体規模 30名~80名程度
標準的な日数
  • 船舶利用の場合 4泊5日(船中で2泊)
  • 航空機利用の場合 3泊4日
主な訪問地 福岡・大阪・京都・奈良・東京
他の候補地 中国

訪日教育旅行の主な目的

check_box 海外文化探訪(朝鮮通信史など)
check_box 体験系プログラム(伝統工芸制作、スポーツ、自然など)
check_box 姉妹校訪問

訪問地の決定要因

check_box 予算
check_box 安全性
check_box 学習プログラム
check_box 保護者の意見

publicオーストラリア

言語 英語

オーストラリアからの訪日教育旅行生は、主に日本語学習者です。オーストラリアにおける日本語学習者は約41万人と非常に多く、小学校から高等学校にかけて多くの学校で日本語クラスが設置されています。スクールホリデーである9月には、日本語教師が引率して日本語クラス単位の教育旅行が催行されています。

日本語学習の一環であるため、日本人との交流や日本の文化体験が好まれます。学校交流では子供たちが一緒に活動できる日本文化体験やスポーツ交流などのプログラムに人気があり、ホームステイや民泊の希望も多くあります。

オーストラリアの生徒
実施主体 小学校・中学校・高等学校
実施時期 4月、9月
団体規模 30名程度(日本語学習クラス単位、もしくは有志の生徒のみ)
標準的な日数 14日間
主な訪問地 広島・東京・京都・兵庫・大阪
他の候補地 日本語学習者向けのため他の候補地はなし

訪日教育旅行の主な目的

check_box 日本語学習
check_box 学校交流
check_box 観光

訪問地の決定要因

check_box 費用
check_box 宿泊施設
check_box 安全性
check_box 姉妹校
check_box 公共交通機関

publicアメリカ

言語 英語

アメリカには約17万人の日本語学習者があり、アメリカからの訪日教育旅行生もオーストラリアと同じく主に日本語学習者です。訪日教育旅行は日本語学習の一環として位置づけられ、日本の社会や文化、歴史を学び、日本人と交流するという明確な目的のもとに実施されます。他国とは異なり大学の日本語学習者を対象とした教育旅行も多く実施されています。

教育旅行の手配を旅行会社に依頼せず、学校の先生が自分で手配しているケースが多く、学校交流先を探す伝手を持たないことがあります。また保護者が東日本大震災の影響を気にすることもあり、正確な情報発信が必要です。

実施主体 高等学校・大学
実施時期 6~7月
団体規模 数名~20名程度(日本語学習クラスの生徒のみ)
標準的な日数 7~14日間
主な訪問地 東京・大阪・京都・広島
他の候補地 日本語学習者向けのため他の候補地はなし

訪日教育旅行の主な目的

check_box 日本人の生活体験
check_box 学校訪問
check_box 観光

訪問地の決定要因

check_box 費用
check_box 宿泊施設
check_box 安全性
check_box 姉妹校
check_box 学習内容

publicシンガポール

言語 英語・中国語(簡体字)・マレー語・タミル語

教育熱の高まりを受け、シンガポールからの訪日教育旅行は増加傾向にあります。訪問先の独自の文化や技術の体験が教育旅行の必須項目であると考えられており、体験系の学習プログラムや学校交流、ホームステイの人気が高い傾向にあります。

また、2015年6月にマレーシアのキナバル山で起きた地震で、シンガポールから修学旅行中だった小学生6人が犠牲となって以来、教育旅行における安全と安心が強く求められています。

実施主体 小学校・中学校・高等専門学校(学校長・担当教諭が訪問地決定に影響)
実施時期 6月、11~12月
団体規模 25名程度
標準的な日数 7~8日間
主な訪問地 関東・関西・九州(沖縄・北海道の希望も多い)
他の候補地 オーストラリア・韓国

訪日教育旅行の主な目的

check_box 学校交流
check_box ホームステイ
check_box 先進技術体験

訪問地の決定要因

check_box 安全性
check_box 学習内容

publicマレーシア

言語 マレーシア語・英語

私立学校を中心に旅行会社への訪日教育旅行の問い合わせが増えています。マレーシアには約3万人の日本語学習者がおり、高等学校で日本語を教えるクラスが設けられていることもあります。学校交流やホームステイの需要が高いものの、実施希望時期やムスリム対応のために手配が難航する場合もあります。

また、マレーシアでは公立校はマレー系、私立は中華系の生徒が多く、費用や目的、言語、ムスリム対応の要否などに違いが見られる点にも注意が必要です。マレー系の学校はムスリム対応が必要な場合が多く、中華系の学校はホームステイの希望が多い傾向にあります。

実施主体 小学校・中学校・高等学校(学校長・担当教諭が訪問地決定に影響)
実施時期 6月、11~12月(スクールホリデー)
団体規模 数名~50名程度
標準的な日数 6~8日間
主な訪問地 大阪・東京・京都(地方都市の認知度は高くない)
他の候補地 シンガポール・インドネシア・タイなどの近隣国、もしくは直行便のあるオーストラリア

訪日教育旅行の主な目的

check_box 費用
check_box 学校交流
check_box ムスリム対応
check_box アクティビティ

訪問地の決定要因

check_box 異文化交流
check_box 国際交流
check_box 体験学習
check_box 歴史学習
check_box 観光